取締役会長 杉本 宏之
取締役会長 杉本 宏之
今回は、株式会社シーラホールディングスの杉本宏之会長に
インタビューをさせて頂きました。
11月に入ってから新しく書籍を出版され、
今回出版された書籍は、経営理念や行動指針をテーマにされているということです。
そこで今回は、経営理念や行動指針の意図や背景、文章を読んだだけでは
読み取れないような想いを重点的に聞いてみました。
自己資本比率は40%近く、保有物件の稼働率99.9%という驚異的な数値を叩き出し、
今や年商200億にまで成長したシーラホールディングス。
経営理念や行動指針など、会社を支える「軸」に迫ります。
【1】
質問:
出版する本にあたり、
今回は、シーラホールディングスの経営理念・行動指針についてということですが、
なぜ経営理念・行動指針を題材にしようと思ったのですか?
杉本会長:
これは題材にしようと思ったわけではなく、
扶桑社の山口編集長が、以前から行動指針や経営理念を読んで頂いていたみたいで、
何度も通って頂いて本にしたいと仰って頂きました。
ここ最近、色々ありまして、ものすごいテレビ出演の依頼とか、本だしませんか?とか、きたんですよね。
だけど、どれも明確な理由がない。
山口さんだけは、随分前からうちの経営理念や行動指針を読んで頂いていて、何度も通って頂いていたので。
「御社の行動指針・経営理念が素晴らしい」と仰って頂いて、話しているうちに彼女は本気だなと思いました。
そんなに仰って頂けるなら出しましょう、となったのが経緯です。
僕は全く本を出版しようと思っていなかったし、
題材にしようと思ったこともなかったので、ありがたいなと思いました。
本当に山口さんのおかげでできたし、スペシャルサンクスは山口さんだと思っています。
【2】
質問:
今の経営理念・行動指針にたどりつくまでに
影響を受けた本や影響を受けた人物、考え方などがあれば
教えていただけますでしょうか。
杉本会長:
やっぱり、僕の中で一番大きかったのは、
サイバーエージェントの藤田さんと、幻冬舎の見城さんですかね。
一番大きく影響を受けた人物です。
考え方としては、見城さんがいつも仰っている「義理・人情・恩返し」、
あとは「真心をこめる」です。見城さんは「真心」という言葉をよく使うんですよね。
例えば、言い方が悪いですが、
どんな下っ端の人が来ても、どんなに無名な人が来たとしても、
額に汗して「今日は見城さんにお話を聞きにきました!」って真心こめて来ている人はすぐ分かるし、
こちらも真摯に対応すると。
どんなに偉い人でも、高名な方だったとしても、その人が自分に気持ちがない、真心がないと思った瞬間に、
そんなやつと一緒にいたくない、仕事を受けたくないと思う。
だから、立場やお金とか、仕事ですごい会社をやっているとかではなくて、
「真心」なんだってことをよく仰っています。
あと「圧倒的努力は岩をも通す」とよく言うんですけど、「人がやっていないことをやれ」と。
「人がやっていないことを苦しんで苦しみぬいて、
それを懊悩してやり抜くから突き抜けることができるんだ」っていう、
見城さんのこの3つの言葉はすごい印象に残ってますね。
藤田さんの話をすると、この本の中でも書いたんですけど、
僕が一番苦しい時に「もうリーマンショックで会社が潰れそうです」と相談をしに行った時に、
藤田さんは上場前から投資して頂いていたので、
今売れば株は利益がでるという事は十分に分かっていたと思います。
そんな状況もあり私は、少しでも助けてくれないかな、という甘い思いもあって行ったんです。
藤田さんはその時に、
「役員からもエスグラントは潰れる可能性もあるから株を売ろうと言われ、
その方針が決まったし、売れと言われてるから」って言われて、
その時はリーマンショックの最中で色んな人に裏切られているので、疑心暗鬼になっているわけですよ。
「藤田さん、あなたもか…」という具合に勝手に逆恨みをしていました。(笑)
それからしばらくして、民事再生が終わった後に、最後に株主の欄を見ていたら、
サイバーエージェント藤田晋という名前が載っているわけです。
一株も売られていないんですよ。それで、これはどういうことですか、と聞きに行ったら、
藤田さんは「株を売ると言ったつもりはない。
結局、俺個人が株を売らないと言ったら、会社も売らないということになって、
どうせ二束三文で売るぐらいだったら、杉本の可能性にかけようということになったんだ」と言ってもらって。
こうした貴重な体験から、苦境に陥った若者を助けるってことは
すごく大きいチャンスなんだということを学んだんですよね。
だからベンチャー投資でも、スタートアップに投資をするだけではなく、
苦しくなった会社に救済投資するとか、局面をよく見極めて投資するようにしています。
藤田さんは「結局、つぶれちゃったけど」とか言いながら、
もう一回僕が「起業したい」と相談しに行った時、即断即決で出資をしてくれたんです。
もう3億ぐらい損しているのに、また出資してくれたんです。それは非常にありがたいことでした。
ただ、時価総額8億くらいで投資してくれていて、
ストックオプションと追加出資でもう今14~15倍になっていることを考えると、
結果的に藤田さんには少しだけ恩返し出来たかなと思います。
ただ、お金以上のものをいただいたので、
そういう人の心を動かすとか、人の心を揺さぶるタイミングがあるんだというのは、藤田さんから学びましたね。
【3】
質問:
経営理念・行動指針を従業員に伝え浸透させることも重要かと思いますが、
普段、意識されていることや取り組まれていることがあれば教えてください。
杉本会長:
この本でも書いたんですけど、自分も一回そういう大失敗をして、400億という負債を背負って、
その時に、ちやほやしていた人達が、潮が引くようにどんどん引いていくんですよ。
で、また復活して、会社が成長していくと、
何事もなかったかのように戻ってくる人もいるし、知り合いのように連絡してくる人もいる。
そうした、色んな人間模様を見てきた中で、僕自身は常にフラットにいきたいと思っているし、
どんな人に対しても平等で、どんな時もどんな場面でも、誰の前でも同じことを言い続けたいと心掛けています。
要は、管理職の人にはよく言うんですけど、
僕の前では清廉潔白で、いいことを言って、
社員の前ではいきなりとんでもないゲスなことを言い始めたりしていたら、人間として信用できないでしょ、と。
逆に僕に突っかかってでも、「いや僕は現場の社員を守ります」ぐらい言ってくる人のほうが
信頼できるよって言ってます。
本音で言えばそんな人ちょっと嫌だけどね。(笑)バランスとれたら言うこと無しです。(笑)
だから、僕自身も目上の人とか、銀行の人とかにはどんな場面でも
同じ事を言い続けるようにしています。
例えば、ビジネスにおいては不利な立場になるってこともあるじゃないですか。
ビジネスは、有利不利、常にカードのきり合いだと思っているので。
ビジネスの現場では、最後このカードを残しておかないといけない、とか僕も考えるんですけどね。
だけど、どこの場面でも、こちらが有利な立場にたったとしても、
相手へのリスペクトを持たないといけないと思うんです。
総合的には、正直で愚直でいることだと思うので、
結構、こちらの手の内も言っちゃう場合が多いですね。(笑)
不動産の価格交渉でも「お金に困っているので、今月決済しないといけない」と言われることがあります。
5億円で出していたけど、4億円でどうしても売りたい物件があると。
その場合、相手の内情も聞いた上で、
こちらの手の内も明かして、3億5千万だったらキャッシュで決済するよ、というようなことも伝えてしまいます。
不動産取引ではよくあるんですよね。
契約3日前に「やっぱり契約しない」なんてことも。
もっと相手を追い込んで3億に下げるとか。
それは不動産会社の優越的立場の乱用の常套手段ですよね。
えぐい会社はがんがんそういうことやってきますから。
僕もそういうことやられたことがあります。
だけど、それは「二度とこいつと取引するか」と思ってしまううし、やっぱり禍根を残すわけですよね。
そうやってのしあがってくる会社もあるんだけど、僕はそういったことはやりたくない。
だから予め絶対に裏切るということはしないと伝えて、
その代わりうちの立場とおたくの立場を考えて、お互いに爪を伸ばさないで、という話をして、
結果3億5千でまとまるとか。そういうことです。
だから、何処でも誰とでもどんな場面でも、
なるべく一定の考え方、平等でありたいということを伝えていくようにしていますね。
もう一つは、人生で様々な経験をして、
自分の人生の目的とは何かを考え、僕は「関わる人達を幸せにする」というはっきりとした目標を掲げたので、
そこからは、あんまり儲けるためにとか、この人を利用してやろうとか、そういった考え方がなくなっていったんですね。
ギブアンドギブアンドギブで良いと。
それがいつか自分に返ってくるという考え方に切り替えた。
そしたら、人に尽くすことも迷わなくなりました。
人が杉本と関わって良かったなと思ってもらえるように動くと決めたので、
売上利益もあんまり言わなくなりました。
お客さんが幸せになった結果、うちに利益をもたらしてくれるんだから。
社員が「この物件を仕入れて良いですか?」と言ってきたときに、
「本当に良い物件だと思っている?」ということを聞くと、社員が勝手に考えてくるんですよね。
良くない物件なら「やっぱりやめます」ということを勝手に結論だして言ってくるんです。
会社は、インセンティブももちろんつけるし、
それなりの所得をとってもらわないと、社員達も幸せになれないじゃないですか。
うちは、現場の営業でもトップは年収3,000万ぐらい稼ぐ人がいるんですけど、
でもそれは「無理してお客さんに売るなよ」ということを常に言ってますね。
【4】
質問:
今回出版される本はどのような人に読んでほしいですか?
杉本会長:
一番は、頑張っているビジネスマンの人達。
また、何かを成し遂げようと頑張っている人達に読んでほしいですね。
頑張ってない人が読んだら、
随分暑苦しい本だなと思っちゃうと思うので…。
頑張っている人達に読んでほしいです。
【5】
質問:
ブログには「失敗の経験ではどんな経営者にも負けない自負があります」と
書かれていましたが、
経営理念・行動指針もやはりご自身の失敗などの経験が
元になっているのでしょうか?
杉本会長:
まさしく、自分の経験と、あとは先輩方の経験などをもとにしています。
本の中にエピソードも散りばめられていますけど、自分の経験は大きいですね。
ただ、「賢者は歴史に学び愚者は経験に学ぶ」という言葉にある通り、
経験だけに囚われてはいけないということは常に考えています。
歴史に学ぶということも意識してますね。
なので、周りの失敗とか、過去の企業の失敗とかも含めて、
自分の経験に照らし合わせて理念を創り上げました。
【6】
質問:
シーラホールディングスの企業理念
「安心と愛と感動で世紀を超えて永続する。」には、
どのような意図や思いがあるのか、
詳しくお聞かせいただけますでしょうか?
杉本会長:
この名の通り、本でも書いたんですけど、
「安心と愛と感動で世紀を超えて永続する。」というのは、
聞く方が聞くと、「安心と愛と感動…綺麗事じゃん」みたいな、
ちょっと気持ち悪いなって感じる人もいると思うんですよね。
実際に「そんなことはどうでも良いんだよ」って見城さんにも言われてしまったんですけど。(笑)
「本音でいえよ」って。(笑)
でも、これは僕の本音でもあって、
エスグラントの経営に失敗した時に、この3つの視点が大きくかけていたなと感じたんですよね。
「安心」って何かと言ったら、
銀行からも安心して貸せる会社、取引先も「あ、この会社なら安心して取引ができるな」と思ってくれる会社、
社員も「この会社だったら安心して長く働けるな」と思ってくれる会社。
そういう安心に繋がるってことが、やっぱり愛情に昇華していくと僕は失敗して痛感したんです。
「危ういな、この人達、なんだか毎回方針も変わるし、イケイケドンドンで若い人達が高揚してるし」と思われるような、
自分たちの自己満で急成長している会社って僕は一番危ういなと思っています。
短期的に爆発的に力を発揮するのは割と簡単だと思う。
誰でもとは言わないけど、割と多くの人ができる。
けど、それを企業として継続していく、30年、40年、50年とサステナビリティがあるということは、
非常に難しいことだなと思います。
ビジネスマンでもそうじゃないですか。
1年、2年と短期の結果って必死に頑張れば誰でも出せるけど、
じゃあ、5年経った時、5年分の結果を平均したらどうなるの?って言われるとなかなか難しい。
つまり、サステナビリティ=安心と愛。
安心できる人になる。
それは言動とか行動もそうですし、
「なんか見ていて安心できるな」って思える人達が
そういうところに愛着がわいて、愛情が湧いていくのかなと。
そうすると会社が永続していくんだろうなって。
世紀を超えて長く愛される会社になっていくためには、
安心と愛と感動はテーマだなと本気で思っています。
なので、まず一番大事にしているのは安心なんですよね。
それは理由があって、エスグラントの時は、金融機関も不安だし、
「この会社貸して大丈夫か?」って思っていたと思うんです。
だから、我々も貸し剥がしにあってしまったし、
取引先も安心していなかったからこそ離れてしまったと思うし、
そこに安心と愛がなかったからこそ、
突き抜けて感動を生み出せるような会社になれなかったし、
サステナビリティもなかった、そういう反省の思いも詰まっています。
【7】
質問:
行動指針の中に
「事業計画は最高のシナリオと最悪のシナリオの2本立てだ。
ポジティブとネガティヴの狭間にこそ、輝きを放つ成果が埋まっている。」という
項目があるかと思います。
「ポジティブとネガティブの狭間」という部分が
少しイメージしずらかったのですが、
つまりどういう行動をすることなのでしょうか?
杉本会長:
ビジネスにおいて3年とか5年とか目標を立てて、売上を計画していくんですけど、
そんな計画通りに3年後、5年後と上手くいく事業計画なんてなかなかないじゃないですか。
短期的に上方修正することができたとしても、
さっきと同じで、継続ってなかなか難しいし、
最高のシナリオ考えて最高のシナリオ通りにいくっていうことはまずない。
それが外部要因によって、
例えば、僕らはリーマンショックによって描いていた売上450億という目標が、
320億という結果になってしまうんですね。2008年6月期に。
その時、最高のシナリオを描いたんだけど、スタンダードシナリオは400億、最悪のシナリオは350億だった。
うちの実力なら最低でも350億できる、普通にやれれば400億を超える、
でも上方修正できる目標としては450億まで頑張ろう、とスタートしたんですけど、
まさかの最悪の想定も下回るという結果になりました。
それは外部要因のリーマンショックによって、金融がとまって、すべてが最悪の方向に動いた。
そういう経験をして、やっぱりこういうことって起きるんだなってなりました。
だから、自分達がいくら最高のシナリオを想像したからといって、
その通りになるとは限らないし、
やっぱり事業って結局人が動かしているので、
人が裏切って独立するかもしれないし、
キーマンが病気になってしまうかもしれないし、
クライアントが倒産してしまうかもしれないし、
世の中の外部的な要因で、今だったら米中協議がうまくいかないとか、
北朝鮮がミサイルを発射して戦争が始まるとか、分からないですけど。
起こり得ても不思議ではない。
その最高と最悪のシナリオを想定しておけば、何が起きたとしても耐えられる。
だから、最悪のシナリオを僕たちはいつも想定していて、準備ができているとは
自負しているんですよね。
そうやって、ずっとキャッシュを貯めてきているうちに、
今や販管費の3年分のキャッシュがあって、
自己資本比率も40%近くになってきていて、
不動産会社としてはピカピカの財務諸表になりました。
銀行からもお金貸したいと言ってくれるような会社になったんですけど、
直近では45年でお金を貸していただけると提案頂きました。
45年でコベナンツなしなので、
いくら赤字になっても、債務超過になっても銀行がうちに貸し続けないといけない契約なんです。
そこまでの条件で銀行さんが貸して頂けるって会社となると、
ゴールデンサイクルというか、どんどんキャッシュが増えていくし、利益がでる。
45年1%で調達したお金で5%、6%の不動産を買ってくるわけですから、
少し大げさに言えば、半永久に儲かるというサイクルになっていくわけです。
もちろん、リーマンショックみたいなものがあれば、評価が下がるということはあるんですけど。
でも、45年で借りたら、短期的に下がったとしても持ち続ければ良いわけです。
5年で借りたりするから6年後に売らなきゃいけないってなるんです。
うちは45年かけて持っておけば、さすがにこの資本主義経済の中ではでっぱりひっこみがあったとしても、
結果的に元値ぐらいとれるだろうという計算はしていて、
今度は60年債をやって頂こうと話しているぐらいです。
60年っていうと「俺達、会社にいないよね」なんて言ってますけど。
と言う訳で、潤沢な資金があって自己資本比率も高く
銀行さんからも立派に評価して頂ける会社になれたんですが、
しつこく50年で貸してくれ、60年で貸してくれ、なるべくキャッシュ使いたくないんで、って
言い続けているんです。
銀行からすれば、「なんで、御社はお金あるじゃないですか」と。
一回、既に取引のある某銀行さんの営業担当が、期末の成績もあって、営業に来ました。
それで、金利1.8%20年で貸してくれるってなったのですが、
最後に審査部に否決された理由が
「あの会社はうちから借りる必要ないでしょ」という理由だったんですよ。
「なんでうちから借りるのわざわざ」って審査部が懐疑的に思ったのが一番大きかったらしいです。
どうせ早く返すでしょ、20年で借りるって言っているけど、3年とかで返すつもりでしょ」って
真顔でうちの役員にお話し頂いたみたいです。(笑)
そんな事したことないし、する訳ないんですけどね。
つまり、それぐらい最悪のシナリオを想定しておこうという危機感ですよね。
リーマンショックになって売上半分になったらどうする?という話し合いを定期的にしていますので。
でも、いきなり売上半分ってことが起こるっていうのはまずないですけど、
本当に再び100年に1度の不況が来たら、そしたらリストラも考えなきゃいけないかも知れない。
そうなった時に、社員を新しく雇い入れる時、
30年雇用して退職金まで払うつもりで雇用できる?など、シビアに話し合っています。
なので、新卒も書類で1,000人の応募がくるけど、6人しか採らない。
0.6%っていうものすごい狭き門です。
新卒の方々には失礼なんですけど、
やっぱり我々としては、大量に雇って大量に辞めればよいという考え方はできない。
だいぶ前はそうだったんですけど。
今は6人入れたら絶対5人は残す。
そういう気持ちでものすごい面接も重ねるし、うちはそういう会社ですよということを伝える。
ポジティブとネガティブってそういうことだと思うんです。
常にそこで揺れ動いている、そうするとそこの中に答えが見いだせる。
企業としても成長していくし、
ポジティブとネガティブの狭間で揺れ動いているうちに色々な答えが見つかると思っています。
【8】
質問:
行動指針の中に
「リーマンショックを忘れるな。実力以上の借金が身を滅ぼす。」という項目が
あるかと思います。
やはりリーマンショックの前と後では
経営理念・行動指針に変化はあったのでしょうか?
杉本会長:
当然ですよね。今の私の経営スタイルはこの時の経験が元になっています。
大きな変化はありましたし、
やっぱり100年に1度の大不況を経験できたってことは僕の人生にとって、大きな経験でした。
僕達の時代は、90歳ぐらいまでは生きていくだろうし、
おそらく75歳ぐらいまで仕事するんだろうなと。
そう思うと、30歳で経験できたってことはその後の40年間にとって、
ものすごく大きな経験だったと思うんです。
ご迷惑をかけた方々には大変申し訳なく思いますが、
僕個人としてはすごく勉強になったし、あの時の経験があるから今があるって
言えるようにしなきゃいけないと思っています。
リーマンショックで潰れちゃって、いつまでも愚痴をいって、
僻みや妬みを言っているような人には絶対になりたくなかった。
結果的にリーマンショックがあって400億円の借金を抱えたからこそ今の自分がある、って
言えるようになれたのはすごくありがたいし、あの変化がなかったらどうなっていたのかは逆に心配ですね。
今は哲学があるから、事業を儲かるからやるってことはないです。
そこにお客様がいて、住んでいる方がいて、
長期的に社員やお取引先やお客様が幸せになるということを考えてやるということです。
リーマンショックの時はそれが置き去りになっていた。
まず自分たちが儲けることに変わってしまっていたんです。
まずは売上あげようよ、利益あげようよ、
綺麗事抜きにこれがないと成り立たないでしょ、
東証一部上場なんてできないでしょ、というように変わってしまって、
社員やお客様、取引先が置き去りにされてしまった。
物件を見たときに、「利益は?」という会話からスタートするぐらいでした。
そうじゃないですよね。人口動態を調べて、開発の状況をリサーチして、
街にサステナビリティがあるのか、建物は100年存在してちゃんと利回りをあげることができるのか、
買ったお客様が幸せになるのかとか、それを考えた上で、計画も立てていかないといけない。
今のうちはそれがあったからこそ、99.9%稼働しているんです。
最近は、不動産会社でも不祥事が相次いでいますが、
お客様の幸せが置き去りになって、シェアをとることを優先しろってなっているとか、
あるいは今流行りのベンチャー企業が調達した資金を使いきれとか、そういう発想だったらおかしくなる。
お客様とかマーケットが置き去りにされている。
そんな会社は遅かれ早かれ必ずおかしくなります。
リーマンショックの前と後で大きく変わったかと言うと、そういった考え方が変わりました。
我々の理論だけで、お客様を置き去りにしちゃいけないということです。
そういう意味では、2008年のあの出来事は、
僕に経営者としての信念を植え付けてくれる結果になったと思います。
【9】
質問:
経営指針5カ条の中で
「烏合の衆は負ける。少数精鋭で勝つ」という言葉がありますが、
これから規模が大きくなっていくにあたって、
「精鋭部隊」を維持していくのは難易度が高くなっていくのではないかと思います。
精鋭部隊を維持していくために力を入れていきたい取り組みや
現状行っている取り組みがございましたら、教えて頂けますでしょうか。
杉本会長:
今回だした本に書いてあることが全部だと思うんですけど、
それはやっぱり経営理念や行動指針をよく理解をしてくれて、
社員たちが腑に落ちてくれないと意味がないです。
僕らがいくら大きい旗を掲げても、
それが「笛吹けども踊らず」という状況になれば、形骸化してしまうので、
それをいかに浸透させていくかだと思っています。
そのためには、会社が良くなっていかないといけない。
成長していかないといけないと僕は思います。
企業は綺麗事だけでは成り立たないので、売上と利益だけは絶対にあげていくと。
その中でやらなきゃいけないのは、
我々が作り上げた経営理念と行動指針を徹底して社内に浸透させる努力だけだと思っています。
この会社のクオリティを維持していくということ、そしてその経営理念・行動指針を
社員のみんなにいかに分かり易く腑に落ちてもらって理解してもらうかが大事だと思うので、
我々も身を切っていかないといけない。
どういうことかと言うと、
会社が利益をあげて成長するためにしっかり社員に還元していくことだと思っています。
この本にも書いているんですけど、当社のインセンティブは、ほぼ全部門についていて、
全社員が自分の成果をお金でも数値でも分かりやすくしています。
また、出社時間を一気に朝9時から10時半にするとか。
クレームあったんですけどね。
いや、朝9時から稼働している会社からすると、「シーラは朝連絡つかないから嫌だ」と。
でもそういう会社ですって言い続ければ、周りの取引先も理解してくれると割り切りました。
僕はとにかく社員達に満員電車にゆられてほしくなかったんです。
別に朝早く来たい人は来てもいいし、早く来て朝の余裕がある時間帯にレポートまとめるでもよい。
朝30分でも余裕があるだけで全然違うじゃないですか。
若手の社員だと朝4時まで飲んだくれても5時間は寝られるみたいな。(笑)
また、遠方に住んでいる人は本当に満員電車に揺られなくなって良かったって言ってくれています。
さらに、オフィスから歩いていける距離に住んでいる人は月3万円の住宅手当を支給しています。
そうすると、多くの社員が歩いていける距離に住む。
朝10時半出社だから、みんなで朝食MTGやったりとか、朝活で他の会合に顔出したりとか、
朝がすごく有意義に使える。
会社に縛られない朝が過ごせるのは、すごく有効だと思ったんですよね。
僕も朝は8時とかには起きちゃうんですよ。
別に朝9時に来るってのは苦じゃないんだけど、2時間ぐらい余裕あると実は色んなことができる。
例えば、何かの手続きで区役所に印鑑証明を取りにいかなきゃとか、朝ぱっといけるしね。
スタバ寄って会社いってみる、とか。
別になんでも良いんですけど、朝に余裕ができるってことはプラスになる。
あと、以前は、社員の誕生日会やろうと飲み会やってたんですけど、
飲みたくない人っているじゃないですか。
お酒飲めない人や、仲間だけでやりたいって人もいますし。
これも誕生日会として全員集めて強制的にやるってのは無駄だなって思って、
「愛情手当」という制度に変えて、
誕生日月だけ1万円(役職によって異なる)支給するというのに変えたんですよ。
そしたら社員達はすごく喜んでくれて。
やっぱり現金もらったほうが社員達も嬉しいってことだったんですよね。(笑)
疲れて夜中2時まで飲んだらタクシー代も使わないといけないし、とか。
気兼ねなく誕生日月に1万もらって
好きなところに飯食べに行くということが結果的には良かったかなと思っています。
あとは、今やろうとしていることが、社員向けの所得保障保険です。
もし社員が重度の障害や病気などで働けなくなったら月15万以上支給されるというものです。
そういった保険があるんですよ。会社が入るものです。
そうしたことが会社として身を切るということだと思うので、それをやり続けていこうと思っています。
綺麗事ぬきに売上と利益はあげなきゃいけないし、
少数精鋭で勝つためには、社員がモチベーション高く働いてくれるってことだと思うので、
そのためにはやっぱり会社が姿勢を見せることですよね。
だからこそ、経営理念や行動指針も腑に落ちてくれるかなと思っています。
社員のための制度をこれからもどんどん作っていきたいし、そういう絆というか、
この会社は私達にここまでしてくれたんだから頑張ろう、と思ってくれるような会社じゃないと
ダメだなと思っています。
【10】
質問:
行動指針の中に「常に自問自答せよ。」という項目があるかと思います。
杉本会長自身が自問自答している事や、
メンバーに自問自答してもらいたいことはどのような事でしょうか?
杉本会長:
これは、単純なんですけど、
何も考えずに短絡的に行動している人は、ビジネスマンとしても人間としてもダメじゃないですか。
僕は常にリーマンショックの時の経験とか、過去の体験がベースになっているので、
新規事業を一つやるにしても、本当にこれが我が社にとって必要なことなのかってことは
常に自問自答し続ける癖はついています。
そして、それが他者への想像力にも繋がると思います。
他者への想像力をもって仕事ができない人はダメ。
相手が何を望んでいるか自問自答しないと。
お客さんが、今どのポイントにニーズがかかっているのか、とか。
経営者だとすると、社員達が何を求めているか、お客さんが何を求めているかも含めて、
やっぱり自分自身を客観的に見つめる目というのは必要。全部、自問自答することですよね。
とにかく、自分自身が客観的になれているか、
他者への想像力をもっていられるか、
この2つは常に意識していますね。
考えて考えて考え抜いて、考え抜いた先に出た答えってのが正しい答えであって、
それであれば例え失敗しても、やっても良いと思う。
考えてないな、って人の仕事って分かっちゃうんですよね。
「あーこの人何も考えずに会社に来ているんだな。ただの歯車として働いているんだな」とか。
別にいいじゃないですか、意見が通らない末端の担当であったとしても。
自分だったらどうプレゼンするか、自分だったら事業をどうもっていくか、
考えて、考え抜く事から始まると思うんです。
そうしないと、事業としてもビジネスマンとしても広がりがないじゃないですか。
薄いなって分かっちゃうんですよね。
でも薄いと分かってしまっても、いちいち僕は言わないですけど。
例えば、見城さんだと、その場で「君は薄っぺらいな!」って説教が始まります。(笑)
どんな目上の人だろうと、どんな目下の人だろうと、
何度か激怒している姿を見たことがありますね。どんな場面でも言うんですよ。
前に、ある年上の経営者が見城さんに会いたいと言って会食をセットしたにも関わらず、
ずっと見城さんに喋らせないで自分の話をしていたらしいんです。
そうしたら、30分ぐらいしたぐらいで、
「俺はあんたに会いたいって言われてきているだけで、
あんたの高説を聞きにきたわけじゃないんだよ」って言って
その方のほうが8~9歳年上の大先輩の経営者なんですけど、「帰る」って言って帰っちゃったらしいんですよ。
僕はその後、二次会で合流したから知っているんですけどね。
見城さんからLineがきて、「今日ブチ切れたから帰った、すぐお店に来い!」って言って頂きまして。(笑)
いや、「俺会食中ですよ…」って。「分かった30分待つ、気分が悪い!」って言われて…。
急いで会食を切り上げて合流した覚えが…いやハッキリと記憶に残っています。
要は、ちゃんと怒るんですよね。
どんな人に対しても。末端の社員に対しても。
例えば、2人で対談があって、カメラマンの方に、光の当て方も「その角度違うんじゃないか?」って。
カメラマンさんにも真剣。
ライターさんにも、「どうやって考えてこのライティングしたんだ」とか。
そういうことをものすごく突っ込む。
我々も思うことあるじゃないですか。「んっ大丈夫か?」って。
でも、ライターさんに対しても、
「その質問って本当に考えて質問してるのかな?
いらなくないかなこれ」と思うことがあっても流してしまうじゃないですか。
まぁそれはそれでっていう。流れもありますし。
見城さんはそういうことは絶対に見逃さないです。
名も知らないライターさんを30分ぐらい詰めちゃうみたいな人です。
すごいなって思います。パワーもあるし、一人一人に対して彼こそは平等だなっていつも思っています。
僕は面倒くさくてできない。人に怒る、あるいは叱るっていうのは本当にパワーが必要ですよね。
でも、そう言われた人って必ず何か感じ取るものがあって、
僕が見てきた中では「ふざけんなよ、もういいや」ってなった人はいないんです。
やっぱり次の日、長文で手紙を書いて、
自分の至らなさはこうだったと反応があって、ちゃんと響いている人が多い。
それを見ると、自問自答しなきゃいけない、考えなきゃいけないなって思わされます。
この前、秋元康さんから「これ関わった番組だから見て」ってLineが送られてきたんですよ。
僕は絶対に見なきゃいけないと思ったから、そのLineをスクショしてとっておいた。
3週間後にやっと見られてLine送ったら、「今さら見てくれたんだ。笑」って言ってくださいました。(笑)
それから「杉本の真心が伝わるよ」とも言ってくださった。
秋元康さんとしては、気軽に送ってくれたのかもしれないけど、
僕はしっかりと秋元さんに、思いを馳せて番組を観て、自問自答して、自分なりに感じた事を長文でお返しする。
こうした事の積み重ねをしていると、真心が伝わって、
杉本とは付き合いをしていこうとなるのではないかと、勝手ながら思っています。
思いを馳せて送るからこそ、「こいつは真心が伝わってくるな」って思ってくれるんじゃないですかね。
それで、旅行誘ってくれたり、会食に誘ってくれたり、プライベートでもご一緒するようになりましたので。
つまり、人と人との繋がりで、
「秋元康が信頼しているから信頼できるよね」と、さらに人と人との輪が広がってビジネスが広がっていく。
自問自答はそういったところにも繋がるのかなって思いますよね。
《 株式会社シーラホールディングス 取締役会長 杉本 宏之 》